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『ミッションマネジメントの理論と実践−経営理念の実現に向けて−』中央経済社
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5.理念浸透を進めるための3つのステップ
経営者の調査と先行研究の文献をもとに、理念浸透を進めようとするなら、3つのステップが求められます。それは、
@ 質の高い経営者の存在と、彼らの理念浸透への努力
A 理念と仕事の整合性をとること
B 制度に理念を反映させること
Aに関しては先ほど少し触れましたので、ここでは@とBについて説明を加えます。
まず、@ですが、経営者には「利益より企業の存在意義が明確であることが大切」という強い使命感・倫理観が求められます。と同時に、その想いを伝え、行動し、ときに革新的なアイデアも出し、人々の心を動かすことのできる、リーダーシップも持ち合わせていただくことが理想です。
でも残念ながら、保身に回る、事なかれ主義の経営者も多いのかもしれません。そういう人はトップになってはいけないのです。「経営者、管理者の、つらさと責任の大きさは強調されるべきである。その覚悟と力量がない人は、そういう立場につかせるべきでない。本人も周りもつらい」(伊丹2003)。まさしくそのとおりです。でも、往々にして、本人は得意気で、つらいのは、ひたすら周り・・・。これでは理念浸透どころではありません。願わくば、「この人のようになりたい」と周囲が思えるような人をトップにしていただきたいものです。
Bに関してですが、理念浸透はたやすくないということを念頭におく必要があります。それは、価値観というものは、経営のすべてではないからです。使命感をもって日々の業務に取り組んでいても、市場環境や企業内環境の影響は大きく、必ずしも成果が上がったり、業績に結びつくことが保証されているというわけではありません。ときには、業界全体が冷え込んだり、手段を選ばない競合他社に市場での成功を奪われてしまうこともあるでしょう。
しかし、そのようなときでも、従業員が「われわれは正しいことをしている」とやる気や誇り、強い信念をもって仕事をし続けることができる土壌を、組織は構築していかなければなりません。つまり、利益追求とミッション達成の両方に対してコミットメントがもてるよう、人事制度や教育制度といった「制度」のなかに、理念が刷り込まれていることが肝要なのです。
これら3つのステップは単独で機能するものではありません。@、A、Bすべてを連動させ、理念を伝え、見つめ、従業員が生み出した成果や努力を、評価し、報い、それをまた次の成果につなげていくという、サイクルを回していくことが肝要となります。
理念浸透を進めるための3つのステップ
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これら3つのステップは、とりも直さず「質の高い仕事」をするために求められる要件です。理念浸透というと、目に見えなくてピンと来ないかもしれませんが、結局は組織のなかで質の高い仕事をする人々をいかに増やすことができるか、それが浸透の鍵を握ることを忘れてはならないでしょう。
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