個人が理念を理解するということは、さまざまな要素が複雑に絡み合い、それを押し進めるものである。そのため、ある1つの要因に、浸透の成否を委ねることは現実的ではないうえに、年齢や立場により有効性も変わる。たとえば、経験の浅い若手はまずは仕事をし、人とかかわり観察を進め、失敗や成功を積み重ねていくことで理念の理解が進むが、役員になると経営者との議論と観察が理念の意味を定着化させる。
そのなかにあって、「経験」の重要性は力説するに値する。なぜならそれは本人に依拠しているからである。
経験は、若手のころは、仕事の楽しさを感じられる達成感のあるものが望ましい。しかしそれ以降は、ある種痛みを伴うような、もうダメかもしれないと逃げ出したくなるような経験が糧となる。乗り越える過程で、その後の職業人生の指針となる「学び」と、乗り越えることができたという「自信」を与えてくれるからである。あるとき、「あっ、これが」という感覚で、ストンと落ちるように、理念の意味がわかるようになるようだ。それは視界が開けてくる感覚でもある。
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