この季節になると思い出すことがあります。それは胸が震えるほど嬉しかったできごと。
電車に乗ったとき、目の前の人が、私の本を読んでくれていたんです。もう、嬉しいなんてもんじゃない。立ち上がりそうな衝動に駆られます。えっ?あっ、私の本だ、ってソワソワ。
「あの、その本書いたの私です。ありがとうございます。嬉しいです」。言おうかな、どうしようかなと瞬間思うものの、やっぱりそんなダサいこと、言えないですよね。
私が落ち着きを失っている姿に、その人はまったく気づくふうもなく、黙々と本を読んでくれている。次の駅に着く直前まで読み続け、そして、降りて行かれました。
走り出す電車のなか、心に太陽がすっぽり入った気分になりました。
本を執筆するということは、楽しくもあり、ときにつらくもある。腸捻転を起こしそうな気分で机に向かうこともあれば、天から言葉が降ってくる日もある。そんなことを繰り返しながら、無から有が生み出されていく。
こうして読んでくれる人を目の当たりにしたとき、すべてが報われるというのでしょうか。否、報われるために書いたんじゃない。書きたいから書いたんだけれど、やっぱり胸が震えました。
形は違っても、こういうことって皆にありますね。瞬間を味わうために、日々の大変なことが存在してくれていると思うと、生きてるっていいなと思います。あらためて教えられる、あるべき姿かもしれません。
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