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ほろ酔いだっこ2003

 
 住みたい街で暮らしたい!神戸に引っ越してHAPPYの巻

「住みたい街で暮らしたい」

そんな想いを叶えようと、神戸に引っ越しました。部屋からは、神戸の山並みがパノラマ状に広がります。夜景は特に美しく、オレンジや白の街明かりが、部屋をほのかに照らしてくれるのです。

神戸に住みたいと、繰り返し、何度も何度も思ったものです。それは学生時代から。いざ、物件探しを始めて半年。

家賃○円以内、駅から徒歩○分以内、できれば○LDK、そんな条件を並べ立てている間は、その条件に見合う物件は出ても、ピンとくるものはありませんでした。何件、見たでしょうか?30件?もっと見たかもしれません。

ある日、はたと気づいたのです。今までの人生で、「好きか嫌いか」。実はそれが判断基準になっていたことを。

家賃が多少高くても、駅から歩いても、好きな街に住む以上、好きな環境を味わいたい!そう思った瞬間、物件が出ました。

窓から広がるパノラマビュー。美しい、美しい神戸。一目惚れでした。

今回の物件探しで感じたことは、一見、意味をなさないような「好きだから」という単純なことが、一番、幸福の近道だということ。

それは、仕事にも人間関係にも通ずるような気がしました。苦手なことは、平均点は取れても、ピカ一にはなれなかったはずなのに。だけど、頑張った、無理して、目を閉じて、努力した私。

なんだったのでしょう?

そんなことを反省しつつ、山を枕に、海を友に眠りましょう。マンション群からこぼれるオレンジの灯に照らされながら、人々は幸せであり、不幸であり。何人が心から微笑んでいるのでしょう?だけど、灯があるから、人は癒されたり、涙ぐんだりするのですね。

明日がいい日でありますように。希望に満ちた日々でありますように。神戸はもうすぐルミナリエです。



まさこの今

このエッセイには、心に残るドラマが隠されています。

そのそも、物件探しを始めたのは、2003年4月。名のある業者をネットで検索し、物件をチェック、担当者と会うことになりました。現れたのは、大学を卒業して2年が過ぎたという青年。小型車から降りてきた瞬間、彼は頬を赤らめ、ペコリとお辞儀をしました。やや不慣れな感はあるものの、変な商売っ気がないうえに、頑張って探しますとの姿勢も感じら、私は好感をもちました。

その後、いつも条件に合致した物件を探してきては、「窓が大きいですね」「駅から近いから安心ですよね」と、まるで一緒に住むかのように、親近感をもって物件を見てくれます。時に、「今日は暇なんですか?あっ、じゃあ、このあたりの地理に詳しくなってもらえるよう、少しドライブしましょう」などと言って、車まで走らせてくれます。他愛のない話をする彼は、なんとなく教え子のようです。清潔感もあるし、言いたいことも言えるし、押しつけがましさもないし、半ば楽しいなという気分が加わりました。

そうこうしているうちに、季節は春から、なんと秋になっていました。30件、もっと見たでしょうか。条件には合うものの、実際、物件を見ると、ピンときません。条件を変えたほうがいいんだろうか、それとも妥協したほうがいいんだろうか、いろいろ考えました。疲れた気分も漂います。けれど、彼は相変わらず、いやな顔一つせず、次から次へと物件を探してきてくれるのです。それはなんだか健気でさえありました。

ある日。いつものように物件を見た帰り道、吸い込まれるように、芦屋のある不動産業者の事務所の扉をたたいた私。対応をしてくれた人は、50代半ばの男性(社長)でした。「土地柄ね、飛び込みのお客さんっていうのは、ほとんどいなくて。あなたのような人、珍しいんですよ。このあたりは、おじいちゃんの代から、ウチでっていうのが多くて、もう家族ぐるみのおつきあいでね」と社長。場違いだったのかしらと、少しためらった私に、「じゃあ、とりあえず条件に合うものを今から見に行きますか」そして、高級な国産車で案内をしてくださいました。

2回目に足を運んだとき、車のなかで社長は、物件を探すときの「目の付け所」をあれこれ話してくださいます。「女性の一人暮らしは特に安全が第一でしょ。マンションを見分けるコツはね」といった具合です。体験から生み出された話には説得力と、素人の私が思いもしないような視点がありました。

さらに、社長の話は続きます。「あなたをこの前拝見してね、センスのいいマンションがいいんだろうって思いました。今から見ていただくものは、条件ははずれています。でも、まぁ、見てください」そんな言葉に促され、現地到着。

そして、物件を見た瞬間。もう、うわーーー!という感じでした。ダイニングキッチンの窓からはパノラマ状に六甲の山並みが広がっています。しばし、立ちすくむ私に社長は一言。「見てほしいのは一つだけなんです。好きがどうか、それだけ。それ以外の、安全面やつくり具合などは僕が見ますから」

家賃は大幅に超えていました。だけど、目の前に広がる風景と、社長のこの一言で、私は決めたのです。「ここにする」と。半年かけて30件以上見ても決まらなかったものが、たった2度目で、ハイ決まり!こんなことって、あるんですね。

その後、引越しを済ませ、快適な日々を過ごしていたある日、青年営業マンからメールが届きました。

「よい物件が出たので、電話をしたところ、かからず、メールをしても返ってくる。もしやと思い、先生のホームページにアクセスしました。そして、エッセイを読んで、引っ越されたことを知りました。おっしゃっていたとおりの物件が出て、本当によかったですね。今も営業でその地域に行くと、このあたりのマンションかなと思って見ています。だけど、力が及ばなかったこと、申し訳なく思っています。先生の幸せをお祈りしつつ、また何かありましたら、今度はお役に立ちたいと思います。そのときはどうぞよろしくお願いします」

メールを読んで、ジーンときたことは言うまでもありません。うまくいかなかったときに、本意ではないときに、どう対応するか。人の基本はそこにあるのかもしれないと、彼から教わったような気がしました。

あれから7年。彼はどうしているのでしょうか?一流の営業マンになってくれていることを、願ってやみません。



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