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ほろ酔いだっこ2003

 
 心のなかで拍手を送る小さな少女の巻

幼稚園の頃の私は、人見知りが激しく、「あかんたれ」の代表選手のような子供でした。

遅れて9月から入園したことも重なって、友だち一人できません。お昼休みは憂鬱な時間です。来る日も来る日も教室の片隅で、一人絵を描く毎日・・・。

これじゃあダメ。あるとき意を決して運動場へと出向きました。目に入ったのが、颯爽とブランコに乗っている同級生の姿。乗ってみたい衝動にかられ、ブランコの近くまでいくものの「代わって」の一言が言えません。それでも、毎日お昼休みになると、まるで修行のようにブランコまで通いました。もちろん、そばでボーと見ているだけです。

ところが、日参して、1週間ほど経ったある日。男の子がすごい勢いでこちらに走ってきたと思ったら、ブランコに乗っている女の子たちに、なんと「お前ら、代わったれや!」と言い放ったのです。

すると女の子たちは、勢いよく乗っているブランコを勢いよく止め、そして勢い込んで降りてきて、にらみつけながら言いました。「自分で言えば!」

こうして、ブランコは空きました。でも、私は悲しいやら、情けないやらで、もう乗る気持ちなど微塵も湧きません。出てくるのは、ひたすら涙ばかり。頼んだ覚えもないのに、この男の子ったら・・・。

男の子にしてみれば、合点がいかなかったのでしょう。
「僕、ブランコこいだげるから、座り」
「イヤ!座りたくない!」
「なんでーーーー?!」

言葉を多くもたなかった幼い私は、泣き続けながらも、男の子に促されブランコに座りました。ブランコは少しずつ勢いを増し、風を切っていきます。それと同時に、頬を伝う涙が飛び散って、髪を濡らしたことを覚えています。

大人になって、いつも快活に振る舞っていても、ふと冴えない自分に出会うことがあります。特に既存のグループに接したとき。うまく溶け込めない、気後れする自分がいるのです。そんなとき、ブランコの少女が頭をかすめます。そして、ささやくのです。心惹かれたなら、自分から声をかけなさいって。せめてせめて微笑もうって。

見事できたら、拍手喝采!心のなかでパチパチと、小さな少女が手をたたいてくれるのです。



まさこの今

幼少の頃にすでに今の気質をもっていたと気づくことってありますね。私はこのエッセイでも書いた人見知りをするという点と、もうひとつ、「おかしいことは、損得抜きにしておかしいと言う」という気質がありました。

これも幼稚園の思い出ですが、当時、女王様のような存在の女の子がクラスにいました。女の子達は彼女を取り巻いていて、お絵かきをするときも、彼女の絵を真似て描いています。彼女がそれを強いているのです。私も一度、その輪に入れてもらったことがあります。

彼女の描く絵を見て、ビックリ!眉毛の上に、まつげが描かれているではありませんか。私にも真似て描くよう彼女は言います。私はどうしても、そのとおり描けません。そして、思わず言いました。

「みえこちゃんの絵って、ヘン」

女王様はムッとしました。「何がヘンなん?」私は言いました。「だって、まつげは目の上にあるのに、みえこちゃんの絵は、眉毛の上にあるもん」

女王様は怒り心頭。私にこう言いました。「まさこちゃんは、あっちいって!一生、遊ばへん」。周りの女の子達は機嫌をとりながら「まつげは眉毛の上にあるもんやんなぁ」などと言っています。私は心のなかで思いました「アホちゃう」。

今でもこういうところがあります。生活のためだとか、なんだかんだ言って、長いものに巻かれる人があまりに多くて驚かされますが、私はおかしいものはおかしいと、たとえ、誰が賛同してくれなくても、それを貫くところがあります。

基本的には大ざっぱな見方をしていて、どちらかというと譲るタイプですが、ある一線を越えたような人に行き当たると、もう嫌われようが、立場が悪くなろうが、尊敬もできない人に、媚び媚びするようなプライドは持ち合わせていない!という気持ちが湧き上がってきて、ハッキリ言動に出してしまうんです。

決して賢明な生き方ではないでしょう。小さな少女はパチパチと手をたたかない気もします。でも、それも、もって生まれたものなんだったら、「アホちゃう」とあきらめながら、認めてやろうと思っています。


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