言葉のチカラ
汲む
大人になるというのは
すれっからにしなることだと
思い込んでいた少女の頃
立ち居振る舞いの美しい
発音の正確な
素敵な女のひとと会いました。
そのひとは私の背のびを見すかしたように
なにげない話に言いました。
初々しさが大切なの
人に対しても世の中に対しても
人を人とも思わなくなったとき
堕落が始まるのね 堕ちてゆくのを
隠そうとしても 隠せなくなった人を何人も見ました
私はどきんとして
そして深く悟りました
茨木のり子(1969)『茨木のり子詩集』「汲む」思潮社
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