海外でのインタビュー調査、それが現在の研究の柱となっています。ローマでの調査では、通訳を立てました。
調査を終え、帰り道、通訳の方といろいろ話をしました。利害関係がない気楽さからか、職場では言えないようなことも話せます。それはお互いがそうなのでしょう。
遺跡と宗教の町、ローマ。いたるところに、紀元前の文明の一端が垣間見えます。おそらく、当時と変わりない細い路地を歩きながら、前を向いて彼女は語ります。
海外志向が強くて、海外勤務を希望して、ローマに着任したんです。その後イタリア人と結婚したものの、今、離婚調停の最中なんです。
こちらは教会婚だから、離婚が成立するのに3年かかるんですよ。親権は彼にもあるので、子供を連れて帰国することを、認めてくれないでしょうね。両親が心配してね、生活の足しにって、日本からあれこれ送ってくれるんですよ。もう帰りたいですよ。本当に。
私も話します。
私はね、研究なんて、したくもなかったんですけれど、初めに仕事ありきで、やむを得なかったんです。不本意なことをするのが情けなくてね。だって、自分じゃないみたいで。でも、それしか自分を支えるものがなかったから、泣きながらし続けていたら、なぜか大切なものになっていたんです。
話しながら胸がつまりました。彼女も涙ぐんでいます。
立ち止まったパンテオンの前。前日、お昼間に来ていました。暗闇に映し出される室内と、光に照らし出される室内では、まるで別物です。同じパンテオンとは思えません。それは私たちも同じでしょう。
他人の人生は華やいで見えるけれど、それは影を見せないだけ。本当は、人は皆、何かを抱えて生きている。それは望んだ人生じゃないかもしれない。けれど、与えられた環境のなかで、懸命に生きている。だとしたら、もうそれだけで、どう転ぼうとも十分じゃないのかと。
何を見ても、どこにいても、堂々としたローマの片隅で、あぁ、そうだ、これでいいんだと、そして、人は皆幸せになるために生きているんだと、だから気楽にやろうねと、彼女と握手をして別れました。
こんな瞬間のために、脈々と人生が流れ続けているのだとしたら、素晴らしいことです。やり続けたことで会える人がいる。それはきっと、神様のご褒美ですね。
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