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見果てぬ夢と現実と

 
ファドは畳の部屋には響かない リスボン/ポルトガル

街の石畳の路地を入った、”casa do fado”と書かれたレストランに、ファドを聴きにいきました。暗い照明に一筋のスポットライト。その下で歌われるファドは、いいようのない物悲しさを伝えます。

数日かけて散策したリスボンの風景が蘇りました。丘が海の近くまで迫り、その丘の上に、カラフルなアパートが密集した、どこか東南アジアを思わせるような街。アフリカに近く、夜、繁華街を歩くと、途端にアフリカに迷い込んだような錯覚に陥る街。どこか混沌としていて、にぎやかなのに淋しさを感じさせる街。それは私の心を強くとらえました。

ファドもそうです。日本でいうところの演歌とは、また違う、はらわたに響くような、切なくやるせない、その歌声を聞きながら、あぁ、ユーラシア大陸の、こんな西の果てまで来たんだと、長旅の疲れも忘れ、もう日本になんて帰りたくないと思ったほどです。

リスボンを出発する日、一枚のCDを買いました。そう、ファドのCDです。帰国したのは京都五山の送り火、大文字の日でした。テレビからは送り火の中継が響いてきます。音だけを止め、早速、スーツケースからCDを取り出し、ファドを聴きました。

…………!!ただ暗いだけの歌です。いや、なんだか陰気なだけ。テレビから映し出される、赤々と静かに燃える大文字が、それを助長します。

あらためて気づかされました。音楽を作り出すものは、風土であり、気候であり、湿度であり、風習であることを。

リスボンの夏は、暑いけれど乾燥していて、夜は肌寒い日もある、典型的な地中海性気候です。そのカラッとしたなかで、湿った音楽を聴くからこそ、それが心に静かに染み入るのです。

でも、湿度の高い、風鈴がチリンチリンと聞えてくるような、畳の部屋にファドは響きません。この湿度には、盆踊りのアカ暗い歌がよく似合う。スイカ食べて、うちわもって、♪ア、それ、ア、どーした、これが日本の夏に響く音なんです。

それにしても、その瞬間、日本に帰ってきたんだと、どれだけガッカリしたことか。ファドは私に現実を教えてくれました・・・。もう一度、ファドを聴きにリスボンに行きたいと思いつつ、いまだ叶えられていない夢です。




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