スペインといえば闘牛。一度は見てみたいと思い、マドリッドでは闘牛観戦に興じることにしました。
闘牛場ラス・ベンタスは多くの観客で熱気に溢れかえっています。スペイン人はカラフルな洋服を着ている人が多く、観客席は花が咲いたようです。その陽気さ、その明るさに、気分も高揚します。
トランペットが鳴り響くなか、闘牛が始まりました。まずは闘牛士の入場行進。なかなか厳粛な雰囲気です。そして、音楽が止まり、シーンと静まり返ったなか、扉から飛び出してくる牛。観客席からは「お前なんか負かしてやるぜ」というような怒声とも歓声ともつかぬ声があがります。私も興奮してきました。
さぁ、いよいよ死闘の始まりです。まずはピカドールが馬に乗って登場。彼の役目は、長い槍で牛の首の後ろにあるこぶを付き、頭を下げさせることです。ピカドールは見事、一突きで牛にダメージを与えます。
次にバンデリジェロが登場し、牛の背中に槍を突き刺しました。華麗なその姿に、観客はますますヒートアップ。と同時に、牛が弱っていくのが、見ていてもわかります。
そして、弱ったころにハイライト。ヒーロー、マタドールが登場し、牛との一騎打ちです。槍がささるごとに、会場は拍手と歓声で、ごぉ〜としたような物音に包まれていきます。牛は最後の最後まで戦おうとしますが、最後には力尽きて膝まずきます。そこをさらに最後の一突き。会場は最高潮に達して、割れんばかりの拍手、拍手、拍手。立ち上がっている人、抱き合っている人、踊っている人、さまざまです。
宙にひらひらチケットが舞っています。……なによ、これ!私は憤りの気持ちと、その残酷さに言葉がしばらく出ませんでした。
闘牛は牛の死を見せつける見世物でしかありません。何が人間と牛の戦いなのか。最初から人間が勝つことが決まっている茶番劇。しかも代わる代わる、いろいろな人が登場して、徹底的に牛を痛めていく。そのプロセスは虐待以外の何ものでもありません!!
もし、私がその牛を生んだ親だったら(あり得ないよ……)、いや、でも母牛だったら、「あんたたち人間に、いたぶられて殺されるようなことを、ウチの息子はしていない。返してくれ!!」と号泣して、人間めがけて、殺してやる勢いで走っていきます!
こんな残酷な見世物に熱狂するスペイン人の死生観や英雄観は、日本人のそれとは異なるものなのでしょう。もちろん闘牛士だって命がけの舞台です。けれど、牛は殺されるためだけに、そのためだけに駆け続け、それに拍手を送る、その神経が私にはどうしても理解できませんでした。
うだるように暑い夏に見た、あまりにも刹那的なショー。まさしく文字どおりの「熱狂」ぶりに、スペインの「光と影」を感じずにはいられませんでした。
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