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見果てぬ夢と現実と

 
異国で感じた京都〜離れて気づくそのよさ マントン/フランス

フランスのマントンで行われる「レモン祭」に行きました。マントンは、イタリアとの国境沿いにあり、海岸に突き出た砦が、ジャン・コクトーの美術館になっていたり、町のいたるところにオレンジの木があったり、地中海に太陽がキラキラ降り注いでいたり。いかにもコートダジュールのリゾート地を感じさせる町です。

「レモン祭」では、レモンとオレンジで作られた彫像が、町のいたるところに配置されています。その年のテーマは「ネヴァーランド」。ゾウや、指をしならせて踊る女性たち、仏像などが、すごい数のレモンとオレンジで作られていて圧巻です。

観光客のもうひとつのお目当てはパレード。パレードでは各国をイメージした踊りやお祭りが、順々に披露されていきます。にぎやかな音楽とクラクション。沿道に集まっている人たちは、パレードめがけてムーススプレー(日本では見かけない、糸状にムースが飛び出すもの)を吹き付けています。その陽気さ、その華やかさ、日本では考えもつかないカーニバルです。

そうこうしているうちに、日本をイメージしたパレードが目の前を通り過ぎました。京都の祇園祭を模した行列です。鎧兜をつけた男性が、箱のような山車を担いでいます。外人にはこう見えるのかもしれません。バックに流れている音楽も、コンコンチキチンからは程遠い、元気一杯のポップスです。

異国で思い出された、生まれ育った町、京都。なだらかな山並み、静かに流れる鴨川、千年の歴史を今に伝える神社仏閣、白く淡い桜、百万遍に代表される希望を感じさせる学生街、暑い夏の始まりを知らせる祇園祭。そんな風景が一瞬、蘇りました。私を育ててくれた、静かで芯の通った町、京都。

なぜか涙がスーッと流れました。パレードのにぎやかさは、ますます増していき、クラクションやシンバルが鳴り響いています。

南フランスに来ると、ほとんど日本人と会うことはありません。まして、マントンでは日本人など皆無です。明けても暮れても聞こえる言葉は、理解できないフランス語。目にするものは白人。こういう状況は海外に来たという実感を呼び起こします。その反面、ポツンと混じっている黄色人種という、一種さみしさのようなものも、心のどこかで感じていたのかもしれません。

旅の楽しさは、いろいろな形で表れますが、日本人であることのアイデンティティを感じることも、旅の醍醐味のような気がします。京都のよさを再発見するのは、いつも決まって、海外に行ったとき。離れて初めて見えるものがあるんですね。近くにいるときには気づかない、それが人の弱さなのかもしれません。




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