共産党マオイスト派が政権打倒を目指してストライキに入ったため、市内の交通網は全面ストップ。商店街、銀行なども閉鎖され、うかうか町に出るのも危険とのことから、その日はホテルのプールで過ごすことにしました。
でも、宿泊客はどこに行ったのか、プールには誰もいません。まさしくプライベート化したプールです。のびのび泳いだり、ビールを飲んだり、寝そべったりと、存分にのんびりを満喫していました。
プールサイドにはホテルマンが数人いて、あれこれサービスをしてくれます。1人、すご〜いイケメンがいます。また、その人の親切なことといったら。ランチをとっているときも、イケメンは現れ、つたない日本語で至れり尽くせり。こういうのも悪くありません。
食事も中盤に入った頃、イケメンが緊張した面持ちでこちらへやってきて、私の友人に言いました。「(私を指さして)このオンナと結婚がしたいです」
え〜〜〜、ケッコン!?
友人は私より年上でしたが、姉と思ったのか、おかまいなしに続けます。「私は日本語を勉強しています。日本に行っても、ダイジョウブです。このオンナが好きです。このオンナと結婚したいです」。友人は笑いながら「そう、でも、そんな急に言われてもねぇ」と返しています。彼はいったん、下がりました。
私たちは「このオンナ」にウケました。「女性って単語を習ってないのよ」「教えてあげたほうがいいかな」そんなことを言いながら、大きな声で笑うに笑えず、でも、このオンナって…。その後、プールサイドに戻っても、イケメンは自分がどんなに優れていて、どんなにこのオンナが好きかを言い続けました。
100年続いたカースト制度の影響をいまだに受け、経済成長率が低く、貧困格差の著しいネパール。インフラ整備も教育も不十分なうえに、マオイストが実施する経済封鎖は、食料品の不足や、日常品の値上げを生みだしているようです。蔓延した閉塞感。そんななか、日本人と結婚して、日本で生活できることは、現状から抜け出せる唯一の道なのかもしれません。逆玉ストーリーも実際あるのでしょう。
夕方近くになると、さすがにイケメンは諦めたようで、「写真とってあげます」と旅の記念をたくさん撮ってくれました。
ホテルの外では、ときおり割れたマイクから響く怒声のような、物々しい声が聞こえてきます。私にとってそれは、バカンスでしか味わえない、一種興奮的な音色です。だけど、彼らにとって、それはうんざりする、日々の喧騒にちがいありません。同じ場所にいて、同じ音を聞いて、感じていることはまったく違う。それが現実を生きる人と、夢の続きの旅人との大きな違いなのでしょう。
それにしても、イケメンくん。あれから6年。転職活動はうまくいきましたか?それとも今頃、中国語を猛勉強中なのかな?
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