タイ北部の古都チェンマイで1週間ほど過ごした後、少数山岳民族が住む山間部でトレッキングをしました。「カレン族」「アカ族」「リス族」などが、集落を作っているところを回るというものです。
彼らは床の高い竪穴式住居や、掘っ立て小屋に住んでいました。薄暗い家のなかは外から丸見え。そこに所狭しと大人数の家族が座っています。テレビも電気もなく、誰も働いている様子もありません。何で生計を立てているんでしょう?どの人も、若いんだか、年とってるんだか。子供達はひたすら土にまみれて遊び、その後ろを鶏が走っています。なかにはパンツをはいていない!小さな子供もチラホラ。
日本史の教科書の、最初のページを読んでいる感じとでもいうのでしょうか。日本で、お受験だ、就活だなどと言ってるのが、一体何のことだったのかという気分になります。
そんなバーチャルな感覚のなか、村長という人物に出会いました。50歳ぐらい、ううん、もっと若いのかもしれません。でも歯はほとんどなく、しわしわっとしてて、浅黒い顔をしています。
ガイドさんが村長であることを教えてくれたので、私は会釈をしました。すると、彼は立ち上がり、ガイドさんに何やら話しています。ガイドさんは笑いながらも、首を振り困惑している様子です。村長は促しています。ガイドさんはためらいながら言いました。
「言いにくいんですけど…。あの…。村長が『第三婦人になってほしい』とおっしゃっています」
えーーー!!!??? ダ、ダ、第三婦人?
村長はニコニコしながら、私の手をいきなり握り(!?)「そうそう、二人の奥さんを紹介しよう」と、掘っ立て小屋に招き入れました。
恐る恐る入っていくと、身ぎれいにした第一婦人と第二夫人がいます。この村の女性たちより、はるかにオシャレでヒカリモノまで身につけています。第二婦人は第一夫人よりはるかに若い。やるなぁ〜、や〜らしい〜。
村長は、もしあなたが結婚してくれたら、家を建ててやると言います。そして、土地があるから見せるといって、また手招きをしながら、スタスタ歩いていきます。こんなところに来てまで、物件を見ることになるなんて…。少し歩くと空き地が広がっています。見てみると、日当たりは抜群。でも、そこは急斜面です。ぼんやり玄関を出たら、間違いなく下の村まですべり落ちそう。
少し想像をしてみました。民族衣装を身にまとい、掘っ立て小屋を建ててもらい、歯の抜けた村長の第三婦人になっている姿を。
ブルブルブル。い、いやだ…。
丁重にお断りをして下山する途中、友人は言いました。「第三婦人になったら、今の悩みはゼッタイなくなるよ」
本当にそうです。でも、また違う悩みが生まれるのです。たとえば、第二婦人との確執とか。文化が違いすぎてノイローゼになりかかるとか。いろいろね。どこに行っても、何をしても悩みはつきもの。そう思えば、環境や状況を変えることで、なくなってしまう程度の悩みなんて、大したことではないのかもしれません。
静かな村に観光客が押し寄せるのもどうかと思っていましたが、あれって、村長のお楽しみになっているんじゃないでしょうか?それとも、もしかして観光コースだったんでしょうか???
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