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見果てぬ夢と現実と

 
アメリカ映画と間違えた9.11事件 台北/台湾

その日、私は台北を旅行していました。夕食はとったものの小腹がすいて、ラーメン屋に。いかにも庶民的なそのお店のテレビからは、流行歌が流れています。台湾のアイドルでしょうか。「♪ニャ〜チャ〜フェ〜」というような発音で歌っています。あまり美人ではありません。

ラーメンが来たそのとき、店員がチャンネルを変えました。立ちのぼる湯気の向こうには、タワーが炎上している様子が映し出されています。

「アメリカ映画だ」。咄嗟にそう思いました。それにしてもリアル。煙の出方がとても作り物とは思えません。大学時代、LAのユニバーサルスタジオに行ったことがあります。まだ大阪にUSJのなかった時代です。それは、それは刺激的!迫力に関してアメリカ映画に勝るものはない、そんなイメージさえできたほどです。だから目の前のテレビの光景を疑うことなどありませんでした。アメリカ映画ならではだと。

ラーメンを食べ、友人と話し、テレビに目をやると、まだ炎上している様子が映ったままです。中国語なので内容が理解できません。とはいっても別段気に留めることもなく、おしゃべりに夢中になっていました。

ホテルに戻って、衛星放送のNHKにチャンネルを合わせた瞬間、わが目を疑いました。またしてもあの映像が映し出されています!

ただ事ではない!やっと、そのとき気づきました。ニュースを聞くにつれ、鳥肌が立ってきます。その日の夜は眠れませんでした。

航空機を使ったテロ事件が、同時に多発する恐怖。それを体感したのは、翌日の空港での物々しさでした。アメリカ線はもちろんのこと、大事をとってヨーロッパ船もクローズされ、唯一アジア線だけが運行しているという状態です。台湾が標的になることはないとわかっていても、ほとんど人がいないカランとした空港には、一種異様な雰囲気が漂っています。人のいない空港にきき過ぎたクーラー。「寒い」と感じました。

蒋介石の偉業をたたえる中正記念堂。そこで行われている衛兵交代式が思い出されました。蒋介石の銅像の前に、5人の衛兵が揃い、次の衛兵と交代をするのですが、その姿は一糸乱れず、どの動きもピッタリ揃っています。小脇には銃を抱え、交代した衛兵は、銅像の両脇で、微動だにせずそれを守る任務につくのです。

だけど、自爆テロの破壊的な力の前に、動かぬ護衛など、ひとたまりもありません。

自分のことは自分で守る時代が来た、否、自分のことさえ自分で守れない時代に突入したのかもしれない、そんなザワザワとした気持ちに襲われた飛行機のなか。あれは予告編だったのです。




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