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見果てぬ夢と現実と

 
桜は人生の理想的な姿? クライストチャーチ/ニュージーランド

イギリス風のゴシック建築と、公園の多いクライストチャーチは、清潔感があって安心して散策できる街です。

9月。クライストチャーチは初春といった感じで、やや肌寒さが残るものの、公園のあちらこちらで、色とりどりの花が咲いています。

そこに、ひときわ大きな桜の木がありました。5分咲きで、日本と変わらない美しさです。桜を見ると、嬉しくて、思わず走りよってしまいます。あっ、桜だ、桜が咲いていると。

だけど、走り寄っているのは私だけでした。ニュージーランド人は、目もくれず、その横を勢い込んで歩いています。なかには、うつむいて通り過ぎる人もいます。見上げることもなければ、立ち止まることもない。ここでは、何の変哲もない木なのでしょう。それは不思議な光景でもありました。

考えてみれば、日本人の桜に対する思い入れには特別なものがあります。一説によると、日本人は、江戸時代までは梅の花を観賞していたそうです。ところが武士たちが、美しく咲き、静かに散る桜を、理想的な人生の姿として賛美するようになり、それが庶民たちの間にも広まったと言われています。

理想的な人生の姿を桜に見る。「もののあはれ」を解する日本人ならではの発想かもしれません。

桜に「天の川」という品種があります。その桜の花々は、下を向かずに、上を向いて咲いています。夏の夜空を彩る天の川のごとく、細い枝も空へ向かって伸びています。

初めて見たとき、私は自信をなくしていました。何もかもがイヤでした。うつむく日々に、ふと見上げた桜。見上げても、桜の花びらは私を迎えてはくれません。白い花は空を向いて、あなたなんてメじゃないのとばかりに咲いています。その姿に、しばし立ち止まりました。「はんなり」でもなければ、「柔らかい色気」があるわけでもない。空を向いて咲く花は、むしろ、あっぱれ!です。だけど、よく見ると、か弱くて、頼りなげ。にもかかわらず、上を、上だけを向いている、その強がりで凛とした姿に、うっすら涙がにじみました。

もう一度だけ、高みを見つめてみよう。私に見向きもしない桜に、背筋を伸ばすことの大切さを教えられました。

そんなことを思い出しながら、見られても、見られなくても、ただただ咲く。それこそが美しいんだと、クライストチャーチの桜を見て、やっぱり涙ぐむ私なのでした。




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