高校時代の同級生だった「ヤツ」は、大学で海洋学を専攻。海洋実習のため、船に乗り込む日々が多くあったようです。
船のなかでは結構時間があるらしく、ある日、彼から絵葉書が届きました。「もうすぐアラスカに到着します!」その絵葉書は、同級生だった何人かの女の子たちにも届いているようでした。
仲良し同士で食事をしたある日、彼の話題に。「ヤツ、あー見えてもロマンチックやね」「アラスカのあんなにキレイな花の絵葉書送って来るんやもんね」
その会話を聞いて、私は言葉に詰まりました。たしかにハナの絵葉書でした。でも、私の絵葉書は、アザラシがハナを垂らしているものでした…。
4回生も終わりに近づいたある日、ヤツから手紙が来ました。
「今アラスカです!秘書をするって話、聞きました。おまえは頼りないので、仕事は向いていません。もし辞退できるなら、辞めたほうがいいと思います。おまえは嫁さんに向いています。でも、いつ、どこで、どうなって、秘書になることを決心したのか、2000字以内で述べよ」
そんな内容でした。ふんっ、失礼ね。アザラシの絵葉書といい、何よコレ!
「私が働こうが、働くまいが、大きなお世話よ」そんなことを200字ぐらいで、チラシの後ろに書いて送り返しました。
しばらくして返事が来ました。「おまえは、男のために便箋を買うという発想がないんか!!」そういう内容でした。
私は「その気があればね。あっ、おまえって気安く言うのやめてくれる?」というようなことを返しました。すると今度は、「あなた様におかれましては、いかがお過ごしでしょうか」という返事。もう笑います。あなた様だって。そんなやりとりを何度か繰り返しました。
働くようになってしばらくして。ヨーロッパに行くことになりました。安上がり旅行です。アラスカで、しばらくのトランジット。待合室は山小屋を模したヒュッテのような雰囲気です。片隅に小さなショップがありました。
時間つぶしに見るものの、コレというものはありません。トナカイの角とか、押し花のストラップとか、缶詰とか。そんななか、絵葉書が目につきました。カラカラと回してみます。数多くのアラスカのキレイな花の絵葉書。
ふと、思い出されました。無邪気で罪のない、やりとりをしたことを。
カラカラと回して、また、見てみます。あります、あります。アザラシの絵葉書も。でも、どれもハナは垂らしていません。そりゃそうです。だって売り物にならないもの。
……珍しい絵葉書を送ってくれて、ありがとう。でも、今、私、本当にハナを垂らす気分で、仕事してるのよ。キミは占い師みたいね。なんだか言い当てられた気分。
急に懐かしさがこみあげました。キミはこの地のどこかで手紙を書いてくれていたんですね。机を並べて学んだという安心感。それは、疲弊している私に大きな力でエールを送ってくれました。
人は絶妙のタイミングで、出会いと別れを繰り返しているのでしょう。
もうチラシの後ろに返事を書くことはないけれど、花として生きたいな、そう前向きに思えた瞬間でした。キミにGOOD LUCK! 明るい気分でアラスカを後にしました。
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